2008年4月、札幌病院の相談室を訪れた男性は収入が低く、ぎりぎりの生活の中で治療をためらっていましたが、無料低額診療制度の活用で今後の生活の目処が立ち、目の手術を受ける決意をしました。
医師から治療をすすめられたが
竹川さん(仮名・58歳男性)は、長年糖尿病の治療を続けながらタクシーの運転手をされていました。数年前に妻が病気で他界し、現在はアパートで1人暮らし。月12~13万円の収入(歩合制)で暮らしていますが、月に1万5千円かかる医療費が生活を圧迫しています。
竹川さんが相談室を訪れたのは2008年4月。糖尿病性網膜症の光凝固治療を医師から勧められましたが、費用が両眼で約10 万円かかると知り、困惑した様子でした。
「毎月のやりくりで精一杯。貯金もないし、生命保険にも入っていない。治療したら仕事を休まなくてはならず、収入が減ってしまう。10万円なんてとても無理…」「目が見えなくなったら仕事は無理だろう。でも治療費が払えないと病院に迷惑かけるし。断ろうか…」と力無く話す竹川さん。わらにもすがる思いで来られたのが伝わってきました。
治療をあきらめさせてはいけない
眼の状態が悪化し運転ができなくなることは、竹川さんにとって死活間題です。生活そのものが成り立たなくなってしまいます。竹川さんの加入している健康保険の給付や、その他の社会資源を調べましたが、支払いの軽減策として利用できそうなものはありません。
竹川さん自身「少しでも長くタクシーの仕事を続けたい」という希望を持っており、治療を受ければ元の生活に戻ることが容易に想像できます。ここであきらめさせるわけにはいきません。
そこで、竹川さんに無料・低額診療制度を紹介しました。竹川さんは「こんないい制度があるなんて知らなかった。でも病院に迷惑がかかるようで申し訳ない…」とためらっていましたが、粘り強く制度の趣旨を説明すると、不安も和らいだのか制度申請を前提として眼の手術治療を受けることを決意されました。
後日、「自己負担額10割免除」の決定がなされると竹川さんは、「ひとりであきらめずに、相談して良かった」と大変安堵され、タクシー運転手の仕事も再開されています。
生活を支える制度として
竹川さんのように、働いていながらもぎりぎりの生活を余儀なくされている方にとって、病気や怪我の発生はあっという間に生活の基盤を失いかねない重大な事態につながります。医療費の支払いが免除されるだけでその後の生活の目処が立つ事例もあり、今後も生活を支える制度として無料・低額診療制度の活用を広めたいと思います。