事例から学ぶ「無料低額診療」 医療費が残らない年金生活/糖尿病のインスリン治療を中断

2017-08-24 無料低額診療制度適応事例

事例から学ぶ「無料低額診療」

この間、職員の”気づき”から、無料低額診療(無低診)の適用につながる事例と同時に、行政や地域包括支援センターなどから紹介される事例も増えています。「手遅れ死亡」など悲しい事例を少しでも減少させるためにも、無低診を地域に広げることが求められます。各病院の最近の特徴的な事例を紹介します。

苫小牧病院 医療費が残らない年金生活/糖尿病のインスリン治療を中断
“単身女性高齢者”の2人に1人が生活困窮の恐れ

Aさん(70代女性)は、糖尿病で市内のB病院へ通院していました。インスリンも必要な状態でしたが、経済的に困窮しており5月から治療を中断。「年金が入る6月15日まで受診をしない」つもりだったと語ります。Aさんは、要支援の認定を受けているため、地域包括支援センターが関わっており、6月1日包括センター職員の紹介で無低診を利用し、苫小牧病院を受診しました。Aさんは、「恥ずかしい話だけど相談してよかった」と涙ながらに語ります。

元々、Aさんは夫と二人暮らしで2人の年金を合わせてーケ月に約15万円。持ち家で家賃がかからないため、なんとか生活できていました。そんなAさんの経済状況に変化が起きたのは、3年前に夫が亡くなってからです。1人になったAさんは、ーケ月に8万5千円の遺族年金で生活するようになったため、光熱費や保険料、食費、公共料金などを支払うと医療費の分が手元に残らないこともあります。

糖尿病でインスリンが必要な状態のため、1回受診すると1割負担でも2~3千円はかかります。

この事例からもわかるように、高齢者で一人暮らしの女性の貧困率が高いことが明らかになっています。男女共同参画白書(平成22年版)によれば65歳以上の相対的貧困率(※)は約22%。女性の一人暮らしに限ると約52%(男性一人約38%)まで上昇します。

その背景には、①女性が長寿であるため一人残されてしまうこと、②この世代の女性は「専業主婦」の方が多く、厚生年金を受給できるような人は少数で、低額な国民年金であることなどがあります。私たち民医連職員は、”単身女性高齢者”と聞いたら、2人に1人が生活に困窮している可能性があると理解して関わる必要があります。

今後、当院で行っているSVS(※)調査を活かし”単身女性高齢者”への積極的な介入なども考えています。

苫小牧病院ではAさんの事例のように、日常的に連携する関係機関からの紹介も増えています。昨年、当院看護部主催の「無低診の学習会」に地域包括支援センターからも参加があり、関係機関と共同した支援について学びを深めました。このように様々な場を活かして、地域の方に無低診について知っていただく必要があります。

苫小牧病院 医療福祉課課長 行沢

※相対的貧困率 国民の所得格差を表す指標で、年収が全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合を指す。

※SVS ソーシャル・バイタルサイン。食生活、住居、労働時間、家族、人間関係など、社会の中で生きる指標を表す造語。