低すぎる室温は、疾病罹患・死亡リスクを高める-札幌市での「福祉灯油」実現をめざす要請における田村理事長の記者会見から

2021-12-28 ニュース

低所得世帯で18℃以下が1/3にも

 2021年12月21日に行われた、札幌市での「福祉灯油」実現をめざす要請行動にともなう記者会見で、北海道勤医協の田村裕昭理事長(医師)は、次のように要請の意義を説明しました。

 田村理事長は、「北海道勤医協を含む道民医連の医療・介護事業者は、13年にわたり冬季高齢者生活実態調査を継続している」と紹介。2021年1月に行われた、道内21市町村161名の調査から低所得世帯の冬季の生活の実態を告発しました。調査は、60歳以上の生活保護世帯ならびに低所得の世帯を対象に行われ、聞き取りを行った対象者の内訳は、70歳以上が9割、女性が6割で、8割の世帯が独居か老々世帯と紹介しました。

 調査は各家庭に出向いての調査ですが、実際に室温を測り、暖房の利用状況について聞く質問が含まれています。この設問への回答について田村理事長は「2020年の調査では所得階層ごとの平均室温や暖房利用時間に大きな差はなかったのに、2021年調査では特に低所得世帯で平均室温の低下傾向を認め、平均室温が18℃以下の世帯も生活保護世帯の28.3%、低所得世帯で38.2%に上っていた。中には15℃以下の室温で生活している世帯も11件存在した」と紹介しました。

 暖房利用時間では、6時間以内に制限している世帯は、2020年調査の7.5%から、2021年には12%に増加。現在、灯油価格は調査時よりさらに高騰しているとして、直接支援の必要性を訴えました。

 田村理事長は「2018年のWHOの”Housing and health guidelines “では、冬季室温18℃以上と呼吸器・心血管疾患の罹患・死亡リスク改善の間には中等度のエビデンスがあるとしている」と指摘。「冬季室温18℃以上」、「小児や高齢者にはもっと暖かく」ということを世界に強く勧告していることを強調。新型コロナウイルス感染の再拡大が懸念される今、この勧告を達成し、呼吸器ならびに心血管疾患の重症化を予防することは従来にも増して重要な意義を持っているのではないか、と問題提起しました。

 さらに田村理事長は、凍死による死亡者の80%は65歳以上であり、しかも死亡場所で最も多いのは「家」との国の人口動態調査を紹介。日本救急医学会がまとめた低体温症の実態報告(2011年)でも、「低体温症は室内発症が屋外の3倍」「屋内での寒冷状態での生活は致死率を上昇させる」としていることを紹介。

 コロナ禍のもと国からの交付金の活用が「福祉灯油」についても可能であり、道内の他の市町村が何らかの給付を実現したり、実現に向けて検討する中、札幌市だけが「福祉灯油」はまかりならんという態度を取り続けていることに、医師として率直な懸念を表明。先の日本救急医学会の報告書でも「社会的セーフティーネットの構築によって、結果的に高齢者の重症化の阻止、入院期間の短縮、自宅復帰後の安全な生活が可能となり、医療コスト上のメリットも高い」と述べているとして、札幌市が「福祉灯油」の実現を決断するよう強く求めたいとしました。

 田村理事長は最後に「北海道勤医協は引き続き札幌市とも協力し、新型コロナウイルス感染の収束と感染症に強い社会の実現をめざして、努力を続けていく決意です。福祉灯油の実現は、その一助である」として行政の英断を強く求めました。