生きている価値とは? 「こんな夜更けにバナナかよ」
著者 渡辺一史さん X 鹿野さんの主治医 鈴木ひとみ医師
スペシャルトークショー開催
徐々に筋萎縮と筋力低下がすすむ筋ジストロフィー患者の鹿野靖明さんと24時間体制で支えるボランティアとの交流を描き、大泉洋、三浦春馬、高畑充希など有名俳優の出演で昨年映画化された「こんな夜更けにバナナかよ」。著者の渡辺一史さんを招いたスペシャル卜ークシヨーが(2019年)3月26日に北海道民医連会館で開催され、医系学生11人はじめ24人が参加しました。
渡辺さんと、主人公の鹿野さんの主治医だった伏古10条クリニックの鈴木ひとみ医師が、障害者医療や難病患者をとりまく状況を語り、参加者とディスカッションしました。
イメージが覆された
鹿野さんを取材するまで障害者との関わりやボランティア経験がなかった渡辺さんは鹿野さんと出会い、ボランテイアたちの人と人とのぶつかりあいの中で「難病にもめげずに前向にがんばる障害者、それを献身的に支えるボランティア」というイメージが覆されたと語りました。また、今では当たり前になった地下鉄駅のエレベータ1について、「障害者たちによる命がけのたたかいがあって設置され、健常者にとっても使いやすくなった」と、声をあけることの必要性を強調。鹿野さんとボランティアについてさまざまなエピソードを語りました。
鈴木医師は、「鹿野さんは嫌なことがあると退院するが、幼少期に過ごした筋ジス病棟でまわりの人が若くして亡くなる姿をみて、医療に強い不信をもったことがわかった。鹿野さんの背景を受け止めることで信頼関係ができていった」と話しました。
生きている価値とは
渡辺さんは参加者に「次の疑問に、あなたはどう答えますか?」と問いかけました。
「障害者が生きている価値とは?」「なぜ税金をかけて障害者や老人を助けなくてはいけないのか?」「自然界は弱肉強食なのに、なぜ人間社会は弱者を救おうとするのか?」
この設問をグループごとに話し合い、その内容を発表しました。
渡辺さんは「生きている価値」について、「鹿野さんは労力やお金を消費する存在だった。でも、彼の生きざまが本や映画になり、富を生んだ。鹿野さんと関わることで生き方が変わった
人もいる。生きる価値をお金に換算すると、すごく生産性の高い人だったといえる。しかし、生きている価値を『生産性』に置き換えていいのでしょうか」と指摘。また、「誰もが突然事故にあって障害者になるかもしれないし、難病を発症するかもしれない。やがて高齢者になり、人の助けを必要とする。困っている人を助けなくていいならば、そもそも税金という制度の意味がない」と強調し、「弱肉強食の自然界でも同種同族は助け合うことが多い。人間は、助け合うことを前提とした社会をつくりあげてきた歴史がある」と語りました。
参加者は、「ボランティアは、鹿野さんを支えることで支えられていた側面があるという言葉が印象的だった」「自立というのは、身の回りのことを一人でできることではなく、『自らの生き方を決定すること』だと学んだ」などの感想を寄せました。
(北海道民医連新聞 2019年4月11日号)